【2025年のシェフより】
こんにちは、伊與田です。前回、勢いで大阪へ旅立った15歳の私。今回は、いよいよ始まった「修行生活」のリアルをお話しします。
今の時代なら即アウト？な労働環境と、お金がなさすぎて編み出した涙ぐましい（そして汚い…笑）生活の知恵。
「パティシエって優雅な仕事ですよね」なんて言われますが、その裏側にはこんな泥臭い青春がありました。食事中の方はご注意ください！
衝撃の寮生活：6畳一間に男4人
3月15日、中学卒業の5日後。高知空港からYS-11に乗り、大阪へ。
見送りに来てくれた友人が自転車で数時間かけて空港まで来てくれ、「頑張れよ」と言ってくれた一言が、その後の信念を支えてくれました。
さて、到着したのは大阪・香里園のお店。三角屋根の可愛い建物で、見るもの全てが新しく刺激的でした。しかし、案内された寮に入って絶句。6畳一間に、4人の先輩！
「ココお前のスペースやで」と指さされたのは、布団1枚敷くのがやっとの空間。でも当時は「これが社会か、俺も社会人の仲間入りか」と素直に受け入れ、何の疑問も持ちませんでした（純粋でしたね…）。
その晩の洗礼はタバコと酒！……酒だけは飲めませんでしたが。翌朝は朝5時出勤。緊張で4時に目が覚め、店の周りをひたすら掃き掃除。先輩が出勤してきて第一声、「お前なにやっとんねん」。……ありゃ。
給料5万円のサバイバル術
月日は流れ、初給料！なんと5万円も貰ったではないですか！小学時代の新聞配達（月1万4千円）しか知らなかった私には大金でした。
しかし、「絶対独立する」という信念があったので、3万円は天引き貯金。残金2万円での生活が始まりました。これが数々の「伝説」を生むことになります。
1. 合理的な靴の洗い方
お金がないのでコインランドリー代も惜しい。そこで閃いたのが「靴下を両面履く」こと。「洗濯回数が半分になるぞ！」と大発見のように思いましたが、よく考えると意味がない上に臭いだけ。
次に編み出したのが「仕事中に全部洗う」技。厨房の床をデッキブラシで掃除する際、靴の中に洗剤とお湯を入れ、床をこすると同時に靴の中も、外も、靴下も、足も洗う！一石四鳥の前世紀最大の発見でしたが、靴下の消耗が激しくすぐ穴が開くのが欠点でした。
2. 秘技「オールミックス・熱殺弁当」
食事は給食屋さんからの弁当（1日2食）。ある夏の日、昼ごはんを我慢して夜（深夜1時頃）に食べようと蓋を開けると……ご飯が糸を引いている。「これ納豆菌入り？」まさか。腐りかけていましたが、空腹だし金はないし、捨てるわけにはいかない。
そこで編み出したのが、弁当全体に熱湯をぶっかける「オールミックス・熱殺弁当」。味は……思い出したくありません。先輩からは「地球が滅亡してもゴキブリとお前は生き残る」とお褒めの言葉（？）をいただきました。
銭湯のおじちゃんとコカコーラ
お金がない月の後半は、銭湯代も惜しい。閉店間際の銭湯に行き、番台のおじさんに「掃除手伝うから入らせて！」と直談判。あつかましいことこの上ないですが、おじさんは「しゃーないな」と入れてくれ、掃除の後にはコカコーラまで奢ってくれました。
あの時のコーラの味は、今でも忘れられません。人の温かさが身に沁みました。
笑撃の盲腸事件
そんなある日、強烈な腹痛に襲われました。痛みに耐えながら先輩に訴えると、「犬のマネしとんか？」「ワン言うてみい」とボケ倒され、ようやく病院へ。診断は急性盲腸炎。
「散らすか？切るか？」と聞かれ、仕事が休める嬉しさで「切ってください！」と即答しました。しかし、麻酔が効きにくい体質だったのか、手術中も痛い。
あまりの痛さと研修医たちの視線がおかしくて、オペ中に笑ってしまい、医者に「オペ中に笑う人は見たことないわ」と呆れられました。さらに悲劇は続きます。
入院中、先輩が見舞いに来てくれたのですが、差し入れが「面白いマンガ」。退屈だったので読み始めると、抱腹絶倒！「いててててて！」笑いすぎて傷口が痛み出し、悶絶。先輩の優しさが仇となりました。
結局、10日間の入院生活で規則正しい生活を送った結果、身長が10cm伸びて退院。「寝る子は育つ」は本当だったのです。
（続く）
【編集後記：2025年の現在地】
今思うと無茶苦茶な生活ですが、このハングリー精神（とゴキブリ並みの生命力）が、後の海外修行でのサバイバル能力に繋がったのだと思います。
次回は、いよいよパティシエとしての目覚め。「コンクールへの挑戦と、破壊された作品」をお届けします。
職人としての熱い話になってきますよ！
▼ あの頃のハングリー精神が生んだ、こだわりの味どんな状況でも「美味しいもの」への執着は捨てませんでした。
[こだわりのティラミスを見る]